実力も実績もあるイケメンリア充朝井リョウ先生の直木賞受賞作。戦後最年少だそうです。さらに、現在は就職して働きながら、通勤前後の時間で小説を執筆されているという専業作家も真っ青の安定人生を歩んでいます。
「何者」のテーマは就活ですね。SNS、特にtwitterが重要なコミュニケーションツールとして登場します。直木賞を審査するギトギトのおっさん達はこれまた「若者たちのコミュニケーションがうまく書けている」とか感想を言い合っていたんでしょうか。
まあ賞そのものは、ただの出版社の販促ツールにすぎないわけで、重要なのは中身ですよね。めっちゃ面白かったです。
現在の就活は間違いなく病んでますが、その問題点をあげつらうのではなく、就活とSNSに踊らされる大学生がもがく様子を描きます。
御山大学という架空の大学に通う学生、二宮拓人が主人公。物語は二宮拓人の一人称視点で描かれます。二宮拓人と他4人は一緒に就職活動をしていますが、仲がいいのは表面だけで本心は全く見せません。そして、行動とtweetとの対比が際立ちます。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
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二宮拓人は、ルームシェアしている神谷光太郎の学生時代最後のライブで、留学していた同級生の田名部瑞月と再会。田名部瑞月の留学仲間である小早川里香が偶然二宮と光太郎の部屋の真上に住んでいたことから、一緒に就職活動に挑むことになります。里香もまた彼氏である宮本隆良とルームシェアしています。
瑞月は拓人が片思いしている相手であり、その瑞月は光太郎のことが好きです。しかし、光太郎は瑞月からの告白を断っています。
就職活動は、卓越したコミュニケーション能力を持つ光太郎と精神的に成熟している瑞月が順調に進めます。里香は、学生なのに名刺を作ったり受ける会社のOBをフォローしまくったりと空回りしているとしか思えない行動。隆良は就職の意義が見いだせないといった意味の言動を繰り返しますが、バレバレで1人こっそりと就活を行なっています。
光太郎と瑞月の就活が悪しざまに描かれることなく、里香と隆良が痛々しいピエロのように描かれているのはやはり一人称視点が拓人のものだからでした。就活がうまくいっていない拓人と里香の2人。終盤の里香との会話で明かされる拓人の痛さ。
里香の発言で明らかになったことは、5人で挑んでいた就活ですが、実は全員大学5年生であるということ。光太郎はバンド活動のやりすぎ、里香と瑞月は留学、隆良は休学していた期間があります。拓人だけが就活2年目。そのことが一度も触れられることがなかったことが、拓人以外全員が拓人の痛さに触れないように腫れ物に触るかのように接していたことを抉り出します。検索履歴で出てくるのが、他人の就職先の「2ちゃん 評判」「エリア職 ブラック」といった自分の自尊心を満たしてくれそうなキーワードなのは面白いですね。ありそう。里香は自分の痛さをわかった上で「何者」かになろうとする努力をしていました。その努力すら馬鹿にして傍観者に徹する拓人こそが最も残念な人物であると言い切ります。サブ垢でつぶやいていた、他人をくさす発言もバレバレ。メールアドレスで検索したら出てくるって間抜けすぎる。
エピローグは拓人の就活3年目でしょうか。吹っ切れて自分自身を出すようになっています。いい方に転がっているようです。しかし、コミュ障っぷりは拭えませんね。
- 作者: 朝井リョウ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/11/30
- メディア: 単行本
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