冲方丁先生の短篇集。まとまった時間が取れない人の味方、短篇集。冲方丁先生については、もはや説明はいらないでしょう。あらゆるジャンルで活躍する大作家です。知名度を一躍高めたのはマルドゥック・スクランブルですね。そして天地明察で、SFを読まない人たちにも広く認知されました。
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/07/20
- メディア: 文庫
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あとで読む、いつか読む、そう思っていて私は冲方作品をいままで一つも読んでいませんでした。本作が初めてです。正確には、昔カルドセプトというカードとスゴロクを合わせたようなゲームのノベライズを読んだような記憶がありますが、おぼろげです。カルドセプトについては、積もる思いがあるので、いつか必ずエントリを書きます。長くなりそうなので、まだ書き始めてもいませんが。
本書「OUT OF CONTROL」は全くジャンルの違う7つの話から成ります。あらすじと感想を書いておきます。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
スタンド・アウト
18歳のある夏の少年の回想。少年は筆者を思わせるが、少年の親友こそが筆者のようでもある。飛び出しナイフを持って街を徘徊する、したくなる感覚をむき出しで書いた。そんな感じです。
まあこ
ダッチワイフに惚れた美容師のお話。適切にフラグを踏んでホラーとして完結します。友人から「まあこ」という名のダッチワイフのセットを依頼されたカリスマ美容師見習い。そのダッチワイフの異常な魅力に取り込まれたことから始まる恐怖劇。「まあこ」とは「真亜心」と書きます。縦に書くと、その名づけに込められた悪意に気づきます。
箱
大量のからくり箱を残して自殺したエリートサラリーマン。形見分けに、その箱をもらった3人。親友、後輩、彼女の3人ですが、3人それぞれに思いがありました。優秀なエリートである親友への嫉妬、バレていた会社の金の使い込み、浮気と借金。自殺した彼はそのことに気づいた上で、思いをすべて箱に込めて死んでいました。
3人は箱をネットオークションに出品します。そこから起こる恐怖劇。これも最後は日本人には納得の輪廻的な終わり方。
日本改暦事情
天地明察のダイジェスト版ともいうべき作品。短い話ですが、情熱が伝わる筆致はさすがです。この話だけでも、この文庫本を読む価値がありました。
デストピア
たぶん、秋葉原の通り魔にインスピレーションを得たんでしょうけど。筆者のジャンルの広さを感じさせますが、それほど面白くはなかったです。
メトセラとプラスチックと太陽の臓器
自分たちの子供が900年生きる。そう告げられた普通の寿命の親の気持ちについての話。母親はほとんどヒステリー状態ですね。900年生きられる場合に、子供たちはどんな価値観を持つんでしょう。
OUT OF CONTROL
作家の産みの苦しみを表すんでしょうか。ジョギングに出てから、遭遇した未知や恐怖との邂逅について。
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