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追想五断章 / 米澤穂信、あらすじと感想

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追想五断章 (集英社文庫)

米澤穂信先生の作品では、ミステリー作品「インシテミル」を読みました。この「追想五断章」もミステリーですが、殺人事件が起こるわけではありません。

読んでいると、先の展開が予想できるようになる部分はありましたが、結末はわからず最後までぐいぐい読ませる面白さがあります。リドルストーリーという結末だけが欠けた短編小説が5本出てきます。この短編小説が、過去の事件の真実を告白するためのものであるという事がわかったときに、ひょっとして各短編小説の最後の部分がミスリーティングになってくるんじゃないかな、と気付いちゃったんですね。ただ、それに気付いたからと言って、すぐに謎は解けず、最後まで順にピースが埋まっていく感覚が心地いい。

読後感のいいミステリーでした。オススメです。

あらすじ(ネタバレ注意)

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主人公である菅生芳光は経済的事情から大学を休学して、伯父の古書店に住み込みでバイトをしています。その古書店に北里可南子という女性がやって来ました。彼女の目的は、父である北里参吾が残した短編小説5編を探していました。亡くなった父の友人が残した本を買い取った古書店という事で、主人公の居る書店を訪ねてきました。程なくして、蔵書の中からその小説「奇蹟の娘」を発見します。

「奇蹟の娘」は、目を覚まさない娘が本当に眠っているのかどうか確かめるために家に火を放つという、悪趣味な話です。結末だけが抜けたリドルストーリーでした。

芳光は可南子から、残りの小説を探して欲しいという依頼されます。大学を休学していた芳光は報酬が大金であることから依頼を受けました。手がかりがほとんどない中、調べていくうちに北里参吾の大学時代の友人を当たって2本目の「転生の地」を見つけます。また、程なくして3本目の「小碑伝来」を見つけることが出来ました。

「転生の地」はある殺人の裁判で、殺された男の死体が傷つけられたのが生前か死後かを争うものです。その国では死体は神聖なものなので死後に傷つけられていた場合、殺人を犯した男の妻子までもが死刑の対象になってしまいます。目撃者が裁判に出てきてその証言後、判決がくだされる、という話。

「小碑伝来」は古代中国で名を上げた将軍が、捕らえられ自身の命と、妻の命どちらかを選べと言われる話。

可南子の下には、5編の小説の結末だけが残されていました。ここまでの3つの話の結末はそれぞれ、「娘の焼死体が発見される」「幼子まで命を奪われる」「男の首が一刀のもとで切り落とされる」というもの。

北里参吾は小説を書くような人物ではありませんでした。彼の過去をたどると、かつて滞在したベルギーでとある事件に巻き込まれていたことがわかります。その事件では、北里参吾の妻であり可南子の母が首吊り自殺していました。ただし、事件には不可解な点が多く、死体には銃弾のかすり傷が残されていました。無罪となった北里参吾ですが、日本に帰ってきてからは執拗なマスコミの追求を受けて娘と共に長野で隠遁生活となります。芳光は、5編の小説が、事件の真相を告白するものではないか、と推測します。ペンネームは叶黒白、叶うならば白黒付けたい、そう言わんばかりの名前です。

行き詰まったかに見えましたが、ひょんな偶然から4本目「暗い隧道」を見つけ出すことにも成功します。暗い隧道の内容と可南子から聞いた結末から、芳光は真相を見抜きます。北里参吾は自分の死後、娘が自分の残した小説を辿って真実に至ることを防ぐために、意図的に結末を入れ替えていました。事件の真相は告白したい、しかし、娘に真相を知られるのは避けたいという思いからです。偽りの真実は「母は自殺だった」というもの、しかし真相は母の首吊りに迷っていた時にトドメを差したのが当時4歳だった娘だ、というものです。

しかし、この真相さえも最後の5本目「雪の花」を読むと真相ではない、そう思わせる中身でした。

芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせます。実際に読むと解は1つしかないと思われますが、それすら私が読みきれてなくて間違っている可能性もあります。素晴らしいミステリー作品でした。

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

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