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儚い羊たちの祝宴 / 米澤穂信、あらすじと感想

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儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

米澤穂信先生の短編集です。推理小説の形をとっていますが、犯人または犯人に近い人の告白調で物語は進みます。小説新潮に連載されていたそうですが、最後だけは書き下ろし。短編それぞれは独立した話です。共通点は、とんでもない上流階級の人たちの話だという点と、バベルの会という大学のサークルがところどころで出てくる点ですね。

どの話も、それほど意外性はなく結末が予想できるものです。ただ、やんごとなき方々の常軌を逸した振る舞いは面白い。全体を通してみると、ちょっとボヤッとした小説になってる感は否めませんが、意欲的な作風なのは間違いないでしょう。

各話のあらすじ(ネタバレ注意)

身内に不幸がありまして

名家である丹山家に仕える村里夕日の手記から始まります。手記には、丹山家で起こった悲劇が綴られていました。夕日が使えていた丹山家の令嬢である吹子には兄がいましたが、とんでもない素行不良であり、乱心して丹山家で暴れていたところを夕日と吹子に撃退されていました。そのときに兄は右手を切り落とされています。兄は行方不明となりましたが、祖父である丹山家当主により死んだものとして葬儀が執り行われました。

その後、兄の命日とされる日に、2年連続で丹山家の者が殺される事件が発生。被害者はいずれも右手を切り落とされていました。そして3年目を迎えます。

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夕日は2人を殺したのでは、吹子の兄ではなく自分ではないかという恐怖に苛まれていました。夢遊病のように眠っている間に、吹子を害する身内を排除したいという思いから無意識の間に2人を殺したのではないかと考えました。眠りを恐れたのは、夕日がそのようなフィクションを繰り返しいくつも読んだためです。

実は2人を殺したのは、夕日ではなく吹子です。夕日が読んだ小説はすべて吹子から与えられたもの。吹子もまた同じ恐怖を持っていましたが、無意識ではなくはっきりと目的意識を持って2人を殺していました。そして、3年目に夕日を手に掛けました。理由は他人と一緒に眠るのが怖かったから。身内が死ねば、バベルの会の読書合宿を「身内に不幸がありまして」という理由で欠席できるからです。

北の館の罪人

紡績と製薬業で財を成した六綱家。その前当主の愛人として生まれた内名あまり。母の死後、六綱家に身を寄せます。住み込みでも何でもいいからここに置いて欲しいというあまりに、現当主でありあまりの兄である光次は、北の館を与えます。北の館には、あまりだけではなくすでに光次の兄である早太郎が住んでいました。あまりは光次に北の館で早太郎の世話と監視をするようにと言います。

早太郎の世話をするうちに、北の館と六綱家のいわくについて知り、しばらくしてからは早太郎から不可解な買い物を頼まれます。早太郎に言われるままにビネガーや画鋲、糸鋸、卵、牛の血などを調達するあまり。早太郎の目的はわかりませんが、日に日にやせ細り弱っていきます。

最後には、亡くなることになります。死の間際に早太郎が何をしていたか明かします。早太郎は、兄弟たちのために絵を描いていました。絵の具ではなく、その原材料から調達することにしていたのです。残された絵は、色が青と紫のみですが、だんだんと赤くなるという工夫がなされていました。実は、早太郎を弱らせて殺したのはあまりでした。料理に少しずつ砒素を混ぜていたのです。理由は、財産分与のときの自分の取り分を少しでも多くするため。絵には、兄から抜け落ちた髪の毛が残されていました。

山荘秘聞

辰野家に仕える屋島守子は、辰野家の別荘を管理していました。別荘の維持のために心血を注ぐ屋島ですが、主に別荘を利用していた辰野家の婦人が亡くなってからは、一度も別荘の利用者は現れませんでした。

そんな折、屋島は崖下に落ちた登山者である越智を発見します。大怪我を負ってはいますが、命に別状はありませんでした。別荘にて越智の手当をします。その後、越智を探しに来たという山岳部と遭難救助隊の面々が別荘に現れます。

一度も客を招いたことのない別荘にきた客に喜んだ屋島は、越智を地下室に閉じ込めて、遭難救助隊を歓待します。越智の持ち物であるアイゼンなどが別荘近くで発見されたこともあり、何日も捜索を行いますが当然発見できません。越智の持ち物を、別荘近くにおいたのも屋島。遭難救助隊は諦めて去っていきますが、越智と、屋島のしていることに気付いた歌川ゆき子は、屋島に対して自らの推理を披露。その推理を聞いた屋島は「煉瓦のような塊」を持ちだして歌川の口を塞ぎます。

玉野五十鈴の誉れ

小栗家の一人娘である純香は、当主である母方の祖母から15歳の誕生日に玉野五十鈴というお付きの者を与えられます。純香は、戸惑いながらも同じ年であることからしだいに打ち解けていきます。大学に進学してバベルの会に入会した純香ですが、父の伯父が強盗殺人を犯したことにより、汚れた血が流れているとして大学を辞めさせられ屋敷の離れに軟禁されます。五十鈴は祖母に命じられるとあっさりと純香から離れて行きました。

その後、小栗家には新たに婿が迎えられ純香の弟が生まれます。跡取りとして用済みとなった純香は、離れで餓死寸前となりますが、ある日小栗家から追放されたはずの父と母によって解放されて意識を取り戻します。弟が事故で死に、そのことで半狂乱になった祖母が亡くなったためです。事故のあらましを効いた純香は、弟を事故に見せかけて殺したのが五十鈴であることを確信します。

純香に教えられた歌の通り、焼却炉の中で弟は焼け死ぬことになりました。「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな」

儚い羊たちの晩餐

バベルの会の元会員である大寺鞠絵の手記には、バベルの会が消滅するまでのあらましが書かれていました。祖父が一代で興した大寺家の娘、鞠絵。上流階級の子女との交流を目的にバベルの会に入会しようとしますが、会費を父が出してくれなかったため除名されます。

ある日、鞠絵の父は厨娘と呼ばれる料理人の夏を大寺家に雇い入れます。夏の作る料理は絶品でしたが、買い込んだ材料に対してほんの僅かしか料理が出てこない事や材料費が極端に高いといった不可解な点がありました。夏が来たことにより、大寺家に元々仕えていた料理人の馬淵はクビにされます。馬淵は、辞める直前に鞠絵に大寺家の秘密について話して行きました。祖父を殺したのは息子である父や叔父たちであるということを。自分たちが贅沢な暮らしをしているのは、祖父の財産を食いつぶしているからだという事もわかります。

その後、バベルの会の会長から、除名された本当の理由を聞き出します。会費が払われなかったことではなく、交流を目的としているような人は入れられないという理由からでした。鞠絵は夏に「アミルスタン羊」の調理を頼みます。ちょうどバベルの会の読書会が行われる場所でアミルスタン羊が取れるはずだと夏に話す鞠絵。実は、アミルスタン羊とは人間のことでした。夏も鞠絵もそのことは理解しています。

会長だけを殺してもらえればいいと考えていた鞠絵でしたが、そうはなりませんでした。厨娘は、お金持ち専門の大量の食材の中から美味なるほんの一部分だけを厳選して調理し、残りを目の前で廃棄することで金持ちを楽しませる、という娯楽を提供する仕事だったのです。バベルの会は、大寺家の宴会に出すアミルスタン羊の唇を用意するために消滅します。

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

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