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鍵のない夢を見る / 辻村深月、こじらせまくった女性心理をえぐり出します

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鍵のない夢を見る

辻村深月先生の短篇集で2012年の直木賞受賞作、WOWOWで2013年にドラマ化もされました。すべての話で犯罪者と、その犯罪者とごく近い距離にいた女性が出てきます。犯罪者が身近にいた女性の心情に焦点が当てられているんですが、読んでいるとなんとも嫌な気分にさせてくれます。しかし読まずにはいられない。イヤミス*1というほどミステリーでは無いですね。あえていうならイヤコジラセ女子(嫌な気分になるこじらせ女子の話)といった具合でしょうか。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

仁志野町の泥棒

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語り手のミチルはバスツアー旅行の時に、バスガイドの女性が小学校の同級生である律子だと気付きます。ミチルは、律子について回想します。

律子は小学3年生の時に隣町から引っ越してきました。すぐに仲良くなるミチルですが、同級生から「律子の母親は泥棒だ」と教えられます。にわかには信じられないミチルでしたが、ある日、自分の家に泥棒に入った律子の母と鉢合わせします。その後も、親のことは関係ないとばかりに律子と仲良く遊ぶミチルですが、律子の万引き現場を目撃し、距離を置くこととなります。

ミチルの心を何段階にも揺さぶる構成。最後のオチのやるせなさがいい感じです。

  1. 律子の母が泥棒であることを知る

  2. そのことを、親友の優美子は既に知っていたがおくびにも出さない態度で律子に優しく接していたことを知る

  3. 律子の母が実際にどろぼうしていたところに鉢合わせる

  4. 律子が万引きしているところを目撃する

どの段階もミチルの葛藤があるのですが、3と4の間には律子の母を警察に突き出すことなく、なあなあで終わらせようとする大人のことなかれ主義への絶望もありました。いい具合に盛って来ていて読みやすくていい感じ。この話が一番面白かったです。

石蕗南地区の放火

災害共済地方支部に勤める笙子。実家の目の前の消防団詰め所に不審火が出たという事で現場調査に行きます。そこで顔を合わせたのが、かつて合コンで出会った大林。しつこい大林と一度デートしたことを後悔している笙子ですが、現場では大林はわざとらしく親しげに声をかけてきます。その後、再び別の場所で放火しようとしているところを、大林は現行犯逮捕されます。大林の語る動機は「消防団員として活躍してヒーローになりたかった」というもの。ここでも笙子の心を逆撫でする展開が何重にも張り巡らされています。

  1. 実家近くの不審火ということで現場調査に駆り出される。大林と関わるのが嫌で地元によりつかなかったのに、案の定顔を合わせるハメに。

  2. 自分に会いたくて放火したのではないかと大林を疑うと、その通り放火しようとしていた大林が逮捕される

  3. しかし、大林の語る動機は笙子とは何の関係のないものだった

2と3の間で、大林が犯人ではないか、という想像を後輩に話してしまっていました。36歳という妙齢で、恋愛市場から微妙に締め出されつつある中で存在感を発揮したいがために。大林の見た目が気持ち悪いおっさんであるということと、最後のオチの動機でいたたまれない気持ちになる笙子の心情がいい感じ。

美弥谷団地の逃亡者

ご近所限定で出会いを探せる出会い系サイトで陽次と出会った美衣。どこにでもあるカップルの夏旅行のヒトコマに見えますが、美衣の目にはこれでもかというくらい陽次のダメな部分が目につきます。途中おかしなシーンはいくつもあるんですが、決定的なのは着の身着のままで現在にいたり、買い物の時に美衣の母親のクレジットカードを陽次が使おうとするシーン。美衣に対するストーカーとなっていた陽次は、美衣の母を殺して無理やり連れ回していました。最後はもちろん逮捕シーン。ここでも美衣の心を幾重にもえぐる展開が。

  1. 自分よりも太っていると見下していた敦子が、自分よりも先に初体験を済ませる

  2. 出会い系サイトで付き合い始めた陽次のことを自慢するも、ジャニーズ好きで現実を見ない小百合に「あの男はヤバい」と見下される

  3. 陽次がストーカー化し、母を殺害。

心を無にして陽次に付き従っていたことが最後のシーンで明らかになります。

芹葉大学の夢と殺人

新聞報道の文面から始まる話。芹葉大学工学部教授の坂下を殺害した容疑で逃亡していた羽根木雄大が、逃亡先のホテルで大学時代の同級生である二木未玖を突き落とした、という報道から始まります。

二木未玖の視点から。大学時代に付き合っていた雄大は、現実を見ないダメ男。工学部から転部して医学部に入った後はサッカー選手になって日本代表を目指したいと本気で思っています。未玖が雄大と分かれられないのは、雄大が顔立ちだけは整ったイケメンで見た目だけは自慢の彼氏だから。現実を見て、未玖はイラストレーターの道を諦め私立高校の美術教師となる道を選びます。

大学に留年して残った雄大は相変わらずダメな道一直線。口だけ意識高い系ですが、まったく結果が伴って来ません。未玖はというと、同じ高校教師の宝井から求愛されます。「現実を見れば」宝井の求愛を受け入れることもありかも知れませんが、あまりに気持ち悪い見た目で自分に告白してきたことで、未玖のプライドはズタズタ。

そうこうしているうちに、雄大が大学時代の恩師を殺してしまいます。警察に追われる雄大とホテルで落ちあうと「金貸して」。雄大と一緒に行きたいという未玖に対して、雄大は相変わらず独りよがりな答えを繰り返すだけでした。最後は、雄大の目の前でホテルの階段から飛び降ります。こわれちゃいましたね。

君本家の誘拐

ショッピングモールにて、赤ちゃんを載せたベビーカーが忽然と消え、半狂乱となる母親の話です。

君本良枝は、子どもが授からないことをずっと悩んでいました。何年もたってから自然妊娠でかわいい赤ちゃんである咲良(さくら)を出産します。しかし、生まれた赤ちゃんは想像と違い際限なく泣き続け、良枝をうつ状態一歩手前くらいに追い込んでいます。あれほど欲しいと願っていた赤ちゃんを疎ましく感じて公開するほどに。

そんな良枝の心の闇を察してか、買い物中に消えてしまったベビーカー。モール中を走りまわり、警備員や店員を巻き込んで探しますがどこにも見つかりません。家に帰るとそこには見慣れたベビーカー。

この話だけは、ちょっと他の話と毛色が違うかな。一応、身近な親戚や親友に対して赤ちゃんが居ることで嫉妬していたという前提はありましたが。

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*1:嫌な気持ちになるミステリー、代表格は湊かなえ作品など

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