五十嵐大介先生の装画が目を引く辻村深月先生の長編小説「島はぼくらと」。瀬戸内海にある架空の島である冴島を舞台にした高校生4人の物語です。冴島は人口3000人ほどの離島、次に紹介する高校生4人は島出身の同級生です。島には他に同学年が いません。
地方を描く小説ですが、『水底フェスタ』とはまったく趣が違いますね。辻村先生はこの小説を執筆中に出産を経験されたという事で、そのあたりも影響しているんでしょうか。離島で力強く生きていく人たちを描いています。
主な登場人物紹介
朱里
父親を幼い頃に亡くし、母に女手ひとつで育てられた。母は、水産加工会社「さえじま」の社長であり、島にIターンしてきたシングルマザーを多く雇っている。
源樹
島にやってきたのは2歳の時。父親は島でホテル青屋を経営している。デザイナーの母は島の暮らしに我慢が出来ずに出ていった。落ち込んでいるときに朱里に励ましてもらったことをずっと覚えており、朱里のことが好き。
衣花
島の網元の娘。父親は婿養子で、娘に網元を継がせるために、衣花が島の外に興味を持つことを良としない。おしゃれで美人。
新
4人の中でただ一人高校で部活に入っている。帰りのフェリーの時間が決まっているため、演劇部の部活には毎日30分しか参加できない。脚本家になりたいという希望がある。実はかなりの学力。
この4人が表紙にもなってる同級生4人組。冴島には高校がないため、中学を卒業すると毎日フェリーで本土の高校に通うことになります。冴島は、島おこしのために元大学教授の村長、地方活性化NPOの助力によりIターンでシングルマザーを積極的に受け入れて仕事や生活のサポートをしているという設定があります。
登場人物がすごく多くて、それぞれに魅力があります。あらすじも一本道ではなく、ひとつの話の中でそれぞれのキャラクターの心情が動いていくので、簡単に説明するのは難しいですね。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
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霧崎ハイジと名乗る怪しい作家が、島に移住したいとやってきます。しかし、本当の目的は移住ではなく「伝説の作家の幻の脚本」でした。新が、適当な脚本を誂えて追い返すことに。このとき霧崎の面倒を短期間ですが見たのが、本木という島で働くWebデザイナー。
「さえじま」が地域おこしのサンプルとしてテレビで取り上げられることになります。しかし、その収録を巡って「さえじま」の従業員と村長が対立してしまうことに。村長は自分の存在が無視されたことが我慢なりませんでした。そこから、村おこしに精を出す村長が実はそれなりに小物であったことが明らかになっていきます。
島には医者が居ないのも村長の意向でした。懇意にしている家の息子が医大生で、彼が村にUターンしてくるまで誰も医者を嶋で開業させなかったのです。そんなときに、朱里と親しくしているシングルマザーの娘、未菜が吐血。呆然とする朱里と未菜の母を救ったのは本木でした。差出人不明の手紙に誘われるままに島に来た本木は、実は医者でした。手紙を出したのは新の母。一縷の望みをかけて、医者をやめようとしていた本木に手紙を出していたのです。
高校では進路選択もほどほどに、修学旅行シーズンとなります。島では、朱里の祖母の同級生が亡くなっていました。祖母の島での同級生は、祖母を含めて3人居ましたが、島を出た一人は行方がわからなくなっていました。その友人を探すチャンスとして修学旅行の演劇鑑賞の時間に抜け出す4人。それを見た件の演劇の脚本家である赤羽環は4人と関わることに。この人、短篇集で出てきてましたね。他の作品でも出てきてる人なんでしょうか。
祖母の友人を追っていくうちに、「幻の脚本」の正体が明らかになります。読んでいる人にはやはりというか、島の幼稚園や小学校の演劇で使われる「見上げてごらん」という大きな株によく似た話がそれでした。島の子供たちが減ってしまった後、人数が増えても減っても続けられるように、工夫がなされた脚本だったんですね。
最後は、進路選択の場面となり、衣花がある決意をします。他の3人はそれぞれの夢に向けて進学して行きました。エピローグは、網元の娘として20代で村長を勤めることになった衣花のもとに、看護師となった朱里が島で働くために帰ってくる、というもの。源樹と新も、デザイナーと脚本家として場所に縛られずに働く道を探していずれは島に戻ってくるんでしょう。
ハートフル路線の辻村先生作品は、あらすじで良さを伝えるのが難しいですね。
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