田中相(たなかあい)先生の初連載作品「千年万年りんごの子」を読みました。全3巻で完結。
昭和40年代の東北地方、雪深いりんごの国を舞台に、愛する妻を取り戻すために「神」と戦う夫の戦いを描きます。
これまでは読切りだけだったので、この「千年万年りんごの子」が初連載作品となります。絶望的な展開でどうなるのかとハラハラしながら読み進めました。最後はわかりやすいハッピーエンドとは言えないまでも、穏やかな結末になります。
物語のほとんどが津軽弁で展開されるのですが、読みづらいという事はなく、むしろすごくいい味を出しています。このマンガはみんなにオススメできる良さがあります。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
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主人公である雪之丞は、雪の日に捨てられていたところを子どものいない夫婦に拾われた子でした。学業に秀でて、理系の大学を卒業するときに、お見合いをすることに。相手はりんご農家の娘である朝日、28歳ということで昭和の時代を考えても結構年上。「婿に来て欲しい」と言われ、あっさりと承諾します。捨て子だった生来もあり、物事にこだわらない気性の持ち主。
雪国でりんご作りをしながら過ごす四季は、厳しいところもありますが温かい家族の営みでもあります。少しずつ心境を変化させていく雪之丞。ある日、朝日が体調を崩して寝込んだ日に、雪之丞は雪の中に大きなりんごの木を見つけます。季節外れにも関わらず、美しい立派なりんごが実る木でした。1個もぎ取って持ち帰り、朝日に食べさせます。
ここから急展開。朝日に食べさせたりんごの残りが土くれに変わり、家族の様子が一変します。皆が口を閉ざし、雪之丞にも何のことやらわかりません。かろうじてわかるのは、雪之丞が足を踏み入れたのが「おぼすなさま」という神のいる森で、誰も入ってはならなかったということ。朝日は元気になりますが、突如として髪や爪が伸び、容貌も少しづつ幼くなっていきます。
朝日の幼馴染である陸郎に何が起こっているのか尋ねに行きます。そこで帰ってきた答えは、朝日がおぼすなさまの嫁に選ばれたという事でした。村では60年前まで、12年に一度、おぼすなさまのりんごを食べた女性の中から選ばれた一人を嫁に出すという風習がありました。有り体に言うと生贄。非科学的なことは信じない雪之丞も、朝日の体に起こった現象を否定することができません。
風習に従って朝日をおぼすなさまに差し出そうとする家族に抗い、朝日を東京の実家に連れていく雪之丞。しかし、その試みはうまく行きません。朝日が東京に戻っている間には、村の子どもが朝日に替わり神かくしに遭ってしまっていました。他人を犠牲にすることはできないためしぶしぶ村に戻ると、消えた子どもは戻って来ました。
雪之丞は強制的に朝日と離縁させられ、東京に戻ることを勧められます。あきらめきれない雪之丞は、陸郎家に居候しながら朝日を助けだす手段を考えます。徐々に子どもの姿になってしまう朝日。嫁入りの日が迫ります。60年前に絶えた風習ならば、そのときの祭文に手がかりがあると考え、夜に総代の蔵に忍び込み、帳箱を片っ端からあさります。見つけた60年前の巻物に書かれていた内容は、雪之丞の想像を絶する絶望的なものでした。
60年前、現在の雪之丞と同じように嫁をおぼすなさまに取られることを防ごうと奮闘した男は、おぼすなさまのりんごの木を斧で切り倒そうとしました。斧がまったく入らないほどの硬さで、幹を切ること諦めた男は目に付く枝を折って行きました。しかし、このとき枝を一本折る毎に村では子どもたちが異常なほど苦しんだ後に死ぬという惨劇が起こっていました。おぼすなさまの木に異変が起こったことを察知した村人たちは木に向います。枝を折っていた男を全員で殺し、この風習で止めることになります。
蔵に忍び込んだ雪之丞を見つけた総代は、雪之丞を諌めつつこの時起こったことを語ります。総代の娘2人もまた、この事件の時に死んでいました。村で死んだ子供たちは100人にも登ります。そのため、60歳から67歳の人が極端に少ない村になっていました。このとき死んだ子供たちの命を前借りすることで、風習が止んでいたことに気付いた雪之丞は絶望。
総代からは諦めろと言われますが、雪之丞はすべてを犠牲にしてでもおぼすなさまの木を絶やすことを決断。大切な人のいない身寄りのない自分がこの村に来たのは運命だとも考えます。大量のガソリンを巻き、木を燃やす雪之丞は気づくと、朝日と二人でどことも知れない空間に居ました。本家によく似た家の姿をした神のいる空間。朝日は徐々にそこにいる時間が長くなっていると言います。
雪之丞の命を賭す思いを聞いた朝日は、2人でこの風習を終わらせることを決断。「私達で全部おしまいにするべ」「あなたが鬼なら私も腹をくくって鬼さなる」という発言が朝日から出ます。朝日は、人間ではないものになった自分だけが、神を倒せると考え、雪之丞を騙して村に戻します。神の嫁の祝福を受けたりんごを雪之丞に食べさせ、たった一人神に立ち向かう朝日。
目覚めた雪之丞は、全身に大火傷を負っていましたが、命に別状はありませんでした。おぼすなさまの木は焼け落ちており、朝日の姿はありません。総代に申し開きをし、朝日との約束を守るために村に残ることを決める雪之丞。子供たちがみんな無事であることから、おぼすなさまの力が無くなったと考えることはできますが、これから先どうなるかはわかりません。
エピローグは12年後。半身に大火傷の痕はありますが、雪之丞はりんご農家で働いていました。12年経って誰もおぼすなさまの嫁に取られていません。朝日の髪の入った行李をみんなで食べる雪之丞。12年前、神の空間で食べたものと同じ味で、朝日の存在を感じます。
スカっとするハッピーエンドではありませんが、心温まります。神を倒すなんていうと大袈裟ですが、これって夫婦愛のマンガですよね。
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