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家族シアター / 辻村深月、家族の絆を描く明るい方の短篇集、あらすじと感想

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家族シアター

辻村深月先生の短編集。暗い方じゃなく、「島はぼくらと」のような明るい方の辻村作品です。反目し合っているように見えて、心の深いところで強くつながっている家族の絆を描きます。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

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「妹」という祝福

1歳上の姉・由紀枝の結婚式で、妹の亜季の席には姉からの手紙が置いてありました。そこに書かれていたメッセージを見て亜季は中学時代の姉との関係に思いを馳せます。

ドがつくほどの真面目で分厚い眼鏡でダサかった姉を反面教師に、オシャレであることに注力する妹。会話もなく仲たがいしているように見えましたが、亜季は勉強ができる姉のことを誇りに思っていました。彼氏に姉がダサいと笑われたときに、キッパリと別れを告げるシーンでそれがわかります。

手紙に書かれていた姉からのメッセージは、中学時代に真面目しかとりえのなかった自分にとって自慢だったのはかわいくて人気者の妹がいることだった、というもの。言葉には出さないまでもお互いを自慢に思っていたというエピソードですね。

サイリウム

姉・真矢子はヴィジュアル系バンドのバンギャ、弟・ナオはアイドルの追っかけで、お互いの趣味をバカにしあう仲。

タイトルにあるサイリウムは、アイドルライブで観客が持つ折ると光る棒の小道具のこと。ナオは追いかけているアイドルるみなんを応援する中野ミント会に入っていて、毎回ほかのファンと一緒に応援できるようにサイリウムを手配しています。

そんなナオを気持ち悪がる真矢子はバンドへの思いを弟に見られているとも知らず、ブログにつづっていました。そのバンドが解散するときには喪服を着て過ごす落ち込みっぷり。

バンドが解散するときにブログを見て姉の心を心配する弟、熱狂的ながらもマナーが行き届いたアイドルフている記事をつぶさに発見する姉というお互いの情熱を実は理解しあっていた姉弟の関係が描かれます。

私のディアマンテ

三者面談で娘であるみのりの担任・田中先生に「そんな志の低いことでは困ります」「豊島さんの成績なら東大か京大が狙えます」と言われ、娘をがっかりさせるシーンから始まります。

進学校に特待生で入学した娘ととことん話が合わず、価値観が相いれない母と娘。制服のかわいいマリアン女子大付属に行ってほしかった、仕事が続かず職を転々としてキャバクラで働いているときに夫と出会った、など勉強する娘の無理解な母親の一面が強調されます。

兄は県内の自動車会社に勤めるエリート研究職で、兄嫁からは高校受験でマリアン女子大付属を狙う娘ともどもバカにされていました。娘のみのりはそのことに気付いていて、会いたくないと主張してきたことにショックを受けます。

ダメ母親シーンが続いてどうなることかと思いますが、誰にも知らせることができず一人でふさぎこんでいたみのりの悩みに気付きます。みのりは妊娠していました。相手は担任の田中先生。そのことを咎めることもせず、子供が生まれても面倒を見て、今後の勉強も応援すると言ってのけられる、ある意味足りてないようなドッシリ構えて居るような母親。

タイムカプセルの八年

私大の(文系)准教授で浮世離れした感覚を持つ父親視点で、息子の幸臣が教師になって初出勤するシーンから始まります。

幸臣が生まれてから父親らしいことをまったくしてやれず、運動会の日に早起きすることを忘れ、クリスマスプレゼントを買う約束もスルーしてしまう父親。幸臣が6年生になったときに、「親父会」なる会が開かれて、父親同士の交流が生まれますが、それもめんどくさくて仕方ありません。

幸臣の担任である比留間先生は熱血で評判の良い男性教師でした。比留間先生が率先して幸臣のクラスでは、タイムカプセルを埋めることになります。学校のどこに埋めるかでひと悶着ありましたが、様々なイベントを経て、比留間先生は担任を終えると幸臣たちの卒業とともにほかの学校に赴任していきます。

その比留間先生がろくでもない教師だったことがわかるのは幸臣たちが中学生になってから。みんなが喜ぶ催しにこそ熱心な教師でしたが、授業がからっきしで中学に入ってから授業に入っていけない生徒が続出。さらに、埋めたはずのタイムカプセルも学校の倉庫に放置されていたことが明らかになります。幸臣が比留間先生に憧れて先生を目指していることを知っている父親は、親父会のメンバーで集まって秘密裏にこのタイムカプセルを埋めなおします。

(埋めたはずの時から8年たった)20歳のときに幸臣たちは、裏でそんなことが起こっていたとはつゆ知らずタイムカプセルを掘り起こします。

1992年の秋空

6年生と5年生で年子の姉妹、はるかうみか、姉のはるかはクラスでも明るいポジションで学研の「学習」が好きでしたが、妹のうみかは「科学」が好きなちょっと変わった感性を持つ女の子。

姉からすると、ロマンのかけらもなく口答えしてくるうみかが気に障って仕方ありませんでした。家族旅行で海に行ったときに、貝殻を耳に当てて海の音を聞いていると「貝の中から聞こえる音は、海の音じゃなくて、自分の耳の音なんだよ」

「よく、貝殻から海の音が聞こえるっていうけど、それを出してるのはお姉ちゃん地震。保健室で、耳の断面図の写真見たことない? 耳って、かたつむりの殻みたいな蝸牛って器官があるんだ。あの中、聞いた音を鼓膜から脳に伝える役割をする体液が・・・・・」

ほとんどはるかには何も要求してこないうみかでしたが、次の「科学」が出るときに6年生のものを買ってほしいとお願いしてきます。理由は毛利衛が宇宙に行く特集が組まれるから。2冊分買っていいかどうか親に聞くと、逆上がりができるようになったら良いと言われます。うみかの強い意志を見て、練習に付き合うはるか。

お互い自分にないものを持っていることを認め合って、確かな絆を持つ姉妹って感じでしょうか。

孫と誕生会

妻を亡くしてから1人ぐらししていると、長男が海外赴任から帰ってくるのを機に、敷地内同居することになります。長男の家の孫娘・実音(みおん)とはこれまでほとんど会う機会がありませんでした。

春から3年生になって地元の公立小学校に通うことになる実音と久しぶりに顔を合わせますが、まったく世代の違う現代っ子を前にしてなかなか打ち解けられません。祖父から見ると孫娘はガリガリで、朝からよくわからないお菓子みたいなもの(コーンフレーク)しか食べないことを心配したり。帰国子女ということで英語を喋ってみろ、なんて言って怒らせてしまったり。

小学校で打ち解けられるか心配する祖父という立ち位置で、小学校の課外授業で竹とんぼ作りを教えに行ったりして、実音が話しかけてこそこないものの自慢の祖父だと思っていることが明らかになるシーンが熱いですね。

タマシイム・マシンの永遠

あらすじの前にまず、タマシイム・マシンについて。有名なドラえもんの道具の一つでタイムマシンとは違います。

自分が戻りたい頃の日を設定して、その頃に戻ることができるという道具。現代の自分の魂のみがその時代の自分の身体へ行くため、現代の体は息もしない。ドラえもんによるとそのとき、その戻る頃の時代の魂はどこへいっているかはわからないという。ただし、タイマーをかけないと、人生がその戻る時代と現代の繰り返しとなってしまうことから、タイマーをセットしておく必要がある。また、この道具のことを知らない家族や知人に現代の体が死んだのではないかと心配をかけてしまうことがあるのも難点。

ドラえもんのひみつ道具 (たか-たん) - Wikipedia

子供の伸太を連れて実家に帰省する父は、妻と初めて言葉をかわした時のことを思い出します。同じ飲み屋の別の席に座っていましたが、未来の妻が友達としている会話が聞こえてきました。ドラえもんの道具で何が実現可能かを話しているときに、妻が「タマシイム・マシン」と答えます。友達はタイムマシンと思って話しているんですが、ドラえもん好きの立場として黙っていられず会話に割って入ってタマシイム・マシンについて話し込んでしまいます。

そして場面は現在へ。

「私ね、『タマシイム・マシン』はもう開発されてるんだって思うことにしてるの」「今じゃなくて、この子が大きくなった未来での話だけど。ひょっとしたら、十歳や二十歳になった伸太が、未来から魂だけ入れ替わって、今、この子のなかにはいってるかもしれないじゃない」「自分が大事にされてるかどうか確かめに来たのに、その時にお母さんがため息ついてたり、笑ってなかったら、きっと嫌だろうなって思いながら一緒にいるの」

帰省してみんなに可愛がられる伸太を見て、タマシイム・マシンの存在を確信します。

俺は今、伸太を通じて、自分が生まれたその頃の様子を、数十年の時を経て、我が子に見せてもらっているのだ。俺は大事にされ、愛され、いろんな人に成長を見たいと、それが叶わないなら覚えていてほしいと、祈られ、祝福されながら、この家の中心にいた。

『タマシイム・マシン』はある。実現している。

当の伸太だって、いつの日か、この家で見る日が来るのだろう。

相変わらず、藤子先生好きすぎる辻村先生の温かい気持ちになれる短篇集でしたね。

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