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ハケンアニメ! / 辻村深月、あらすじと感想

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ハケンアニメ!

アニメ業界で働く4人の女性の活躍を描きます。タイトルのハケンアニメとは、覇権を取るアニメのこと。その期に放映されたアニメの中で、DVDなどのパッケージの売り上げが最も大きかった作品のこと。

各章のタイトルはキーパーソンの2人を現しています。

キャラ名 説明
有科香屋子 「光のヨスガ」を見てアニメに夢中になり、現在プロデューサーとして働く妙齢女性。王子を飼いならす猛獣使い
王子千晴 有科プロデュースで「運命戦線リデルライト」の監督を務める。かつて伝説的アニメ「光のヨスガ」を作り上げたことがある天才肌。
斎藤瞳 X大学の法学部に入学するもアニメに出会って夢中になり、卒業後に大手トウケイ動画に入社し、頭角を現した若手女性アニメ監督。「サウンドバック 奏の石」の監督を務める女王様
行城 かつて王子と仕事をしてひどい目に会った辣腕プロデューサー。風見鶏のごとく、多方面に顔が広く、数々のアニメで橋渡しの仕事をする。
並澤和奈 「サウンドバック 奏の石」で担当した絵が神原画と呼ばれる。新潟のアニメ原画スタジオで働く。家賃や物価の安い地方から中央にアニメ原画を届けるという意味で、自分たちの仕事を軍隊アリと捉えている。
宗森周平 ファインガーデンのある新潟県選永市(架空の市)の観光課で町おこしのために働く公務員

あらすじと感想(ネタバレ注意)

王子と猛獣使い

有科香屋子は、現在自分がプロデューサーを務めるアニメ「運命戦線リデルライト(仮)」の製作を進めるために奔走していました。

10年前に放映された伝説的アニメ「光のヨスガ」を見てアニメ業界に入ることを決意した香屋子。光のヨスガの監督である王子千晴はそのとき弱冠24歳でした。王子と一緒に仕事がしたい、その一心で飛び込んだスタジオえっじで、光のヨスガ以来となる王子を監督に迎えてのアニメ制作でしたが、その王子が失踪していました。

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話のストックは3話目までしかなく、脚本の担当者を王子がさんざんにこき下ろして、自分でやると大見得を切ったため、誰にも代わりは務まりません。そんな中、王子不在を悟らせないよう駆けずり回る有科。

もうこれ以上は待てない、その限界が差し迫ったときにフラっと有科の前に姿を現す王子。手にはアメリカ土産のチョコレートがありました。気分転換を兼ねて誰にも告げず海を渡っていたと話す王子の手には、絵コンテの状態で全12話のシナリオがありました。シナリオに目を通し、そのクオリティに有科は感嘆します。

このあと、いろいろあって実は王子は海外に行ってたんじゃなく、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら一人で留守のフリをして自宅にこもって、必死でシナリオを仕上げていたことがわかります。

放映されたアニメの評判は抜群。ここで放映されたリデルライトと覇権を争うアニメが「サウンドバック 奏の石」。

女王様と風見鶏

アニメ制作の大手トウケイ動画で働く斎藤瞳は、これまでの功績でついにやりたくてたまらなかったロボット少年ものシリーズの企画を通します。エリート大学の法学部を卒業するもアニメ業界に飛び込んだ瞳は若くして、その名を轟かせるやり手。

自らが企画した「サウンドバック 奏の石」ですが、放映時間はリデルライトの深夜帯とは違って、夕方枠土曜5時のアニメで倫理委員会もPTAも相手にしなければなりません。

リデルライトの製作シーンと対比されるかのように現場で戦う瞳。しがらみから使うことを強要された声優たちも思うようになりません。

やがて、涙に濡れた目を伏せて言った。『・・・できないことが、悔しくて』

聞いた途端、ため息が出そうになる。瞳の経験上、女性声優が答える泣いた理由は、示し合わせたようにこれ一択だ。

現場から飛び出していく声優、追いかける行城プロデューサー。シナリオ打ち合わせも各スタッフでストーリーに思いがあり、各話演出、作画監督、脚本化、シリーズ構成と誰がNo.2なのかわからないほど関係者が多く、結論がまとまらずに夜通しかかることもしばしば。瞳は無駄じゃないかという思いが顔に出てしまって隠せていません。そこでも「天才肌の斎藤さんには無駄に見えることでも、現場には必要なことってあるんですよ」と両方にフォローに入る行城。

多数の仕事を抱え、みんなにいい顔をしているように見える行城は、顔の広さを生かして瞳をサポートします。瞳が好きなアーティストと知り合いという理由で主題歌に抜擢したり、たまたま東京に遊びに来ていたサウンドバックの神原画を担当していた並澤和奈を雑誌表紙を書いてもらうために呼び出したり。

瞳は、行城がみんなにいい顔だけしているように見えて、気持ちよく仕事ができるよう細やかに配慮していることに気付きます。最後には、スタッフが行城の悪口を話しているところを見つけて一喝。

サウンドバックで神原画を担当した並澤和奈が働く仙台が舞台となった町おこしの話に続きます。

軍隊アリと公務員

「絵を描くのが好きだ」という一心でアニメ業界に入った並澤和奈は、アニメ原画スタジオファインガーデンの社長に誘われて、東京から新潟に居を移して仕事をしていました。

たまたまファインガーデンを訪れた東京のフィギュア制作会社の社員と仲良くなり、休暇でデートのために東京に行ったときに行城に雑誌表紙を描くために呼び出されて恨む一幕があります。

新潟県で自宅とスタジオを往復する毎日でしたが、ファインガーデンのある選永市観光課の宗森周平と関わっていくことで日常が変化していきます。

自宅との往復の間にある駅改札を出たところで、サウンドバックのポスターをでかでかと掲示する男性の姿。後にファインガーデンを訪れて、町おこしのためにサウンドバックの聖地として選永をアピールするために奔走している人だと判明します。仕事場と自宅の往復で和奈は気づいていませんでしたが、サウンドバックの斎藤監督はアニメで登場する町のモデルに選永を使っていました。そこかしこに、名シーンの聖地があり、宗森とスタンプラリーを企画することに。

地元の祭りでもサウンドバックのイラストを入れた舟を作って、舟下りという一番のイベントで観光客にも見てもらおうとしますが、地元商工会の反対に会います。そこを無理やりねじ込んだのが、アニメに理解のある副理事長。雑誌LEONから飛び出たのかと思わせる美形の中年でした。

祭りを盛り上げるために、和奈は東京でデートを邪魔された恩義を、瞳に返してもらうよう掛け合います。行城の手配もあって祭りの日に主要スタッフが勢ぞろい。宗森も自分が知るアニメ関係者と言うことで東京にいる高校の先輩に声をかけると言います。

当日現れた宗森の先輩はなんと王子。王子の父親が副理事長という関係でした。

この世はサーカス

お祭りが大成功した後日、ここまでに出てきた主要な登場人物が次のステップに向かう姿が描かれます。斎藤瞳はトウケイ動画をやめて別のアニメ制作会社へ。

今期のハケンアニメとなったのは、「運命戦線リデルライト」でも「サウンドバック 奏の石」でもなく、「サマーラウンジ・セピアガール」でした。しかし、サウンドバックはパッケージの売り上げで2位、おもちゃの売れ行きも上場。リデルライトは誰もが今季一番面白かったアニメとして挙げるという結果。

今期のアニメが終われば次のアニメへ。いろいろあって抜き差しならない関係だった王子と行城がタッグを組んで春休みアニメ映画を製作することになり、作画監督として並澤和奈が抜擢されます。

人情味あふれる登場人物たちの細やかな描写は辻村先生の素晴らしい手腕ですね。一つのアニメを作り上げるまでに、たくさんのスタッフが関わっているということを漏らさず、しかし冗長になりすぎず書かれていて、完成に向かって行くシーンを読むときにカタルシスが得られます。私が読んだ明るい方の辻村作品では今のところ一番面白かったです。アニメに興味ない人にもお勧めできる内容。

ハケンアニメ!

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