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葬式組曲 / 天祢涼、超展開オチが待ってる葬式ミステリー

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葬式組曲 (双葉文庫)

都知事探偵の天祢涼先生による葬式と葬儀屋をテーマにした小説。

葬式の風習がほとんどなくなり「直葬」と呼ばれる速やかな火葬が一般的になった社会という設定で、舞台となるS県だけは未だに葬式が行われています。

高齢化社会で増える葬式に対して悪徳な葬儀屋や僧侶が跋扈する事態を重く見た国が、葬式に税金をかけたことで急速に直葬が広がり、その税金と相殺する形で葬式助成金を出すS県にのみ葬儀屋が存在します。その助成金を出す条例を通したのは漆原知事だとか。最後にアッと驚く展開が。この展開を意外な面白さととるか興ざめと取るかで評価が分かれそうです。

各話でいろいろな思いを持つ死者や遺族の思いを組んで北条葬儀社が葬式を請け負います。北条葬儀社に勤めているのは4人。

キャラ名 説明
北条紫苑 北条紫苑
新実 祖母を直葬した経験がある元SEの新人
餡子 フリーランスで北条葬儀社を手伝う大ベテラン
高屋敷 長髪で寡黙な従業員

あらすじと感想(ネタバレ注意)

父の葬式

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S県等墨市で杜氏だった久石米造が病院で容体が急変して亡くなります。跡を継いでいた長男賢一郎に呼び戻された次男のデザイナー雄二郎。父の遺言で「喪主を雄二郎にする」よう言われていたことを知ります。

迷った末に喪主を引き受ける雄二郎。父が残していた葬式費用に惹かれました。ところがいざ父が生前に相談していた北条葬儀社と話をしていると思った以上に参列者が多いこともわかり葬式費用ぴったりの葬式を行うことに。

喪主としての挨拶で「父の跡を継ぐ」と宣言する雄二郎。兄は形無しとなります。が、この一連の流れはすべて米造が計算していたもので、雄二郎は父の遺志を組んであえて兄の憎まれ役を買って出ていました。デザイナーとしての才能がありながら父の跡を継いだ兄。天性の味覚を持ちながらデザイナーになるために家を飛び出した弟。父が作った自信の酒のラベルに弟ではなく兄が幼いころに描いた絵を使っていたことから、その意思を察します。

イントロとなる、葬式で故人の思いをいかに汲むか、というテーマみたいなものが見えます。

祖母の葬式

北条葬儀社に生前相談に訪れた金堂美和子と孫の瑞穂。瑞穂はなぜか「絶対に火葬したくない」と言い、美和子は「火葬でいいから、絶対に智史さんと一緒のお墓に入る」と言います。法律があり、土葬は感染症予防の観点から禁止、水葬は死体遺棄に問われる可能性があるということで火葬にしぶしぶ納得する瑞穂。

まだまだ元気そうに見えましたが、それから9日後に階段から転落して亡くなる美和子。瑞穂は火葬に納得こそしましたが、棺だけは自分で用意するといって譲りません。理由を聞くと「絶対神ゼロの戒律に従うため」というカルト全開の答えが返ってきます。その棺で直葬にするつもりでしたが、折り悪く旅の僧侶なる鏡敬なる人物が美和子と親しくしており、美和子がいっていた近松智史氏の親族に連絡してしまっていました。

美和子はかつて智史の愛人でしたが、智史の子供を母親以上にかわいがっていたこともあり親族も同じ墓に入ることには納得。そして葬式を上げることになりますが、「『ゼロの棺』が完成しない」といって延期しようとする瑞穂。

全体的に胡散臭い雰囲気が漂ってきたところで、北条葬儀社の高屋敷が鏡敬がニセ僧侶であることを見抜き、餡子が遺体が美和子でないことを看破します。瑞穂が用意していた棺にはペースメーカーが仕込まれていて、そのまま火葬すれば爆発して骨がばらばらになるしかけが。本物の美和子は膝に人工関節を埋め込んでいたので、火葬した後にそれが出てこないことをごまかすための仕込み。ニセ美和子の正体は美和子の妹。美和子が亡くなってから、智史が亡くなるまで2人は文通していました。文通しながら智史のことを好きになってしまったんですね。

息子の葬式

S県ですが、葬式ではなく翌日に直葬を控えた斎場。直葬されるのは7歳で亡くなった少年、御堂潤。死因は交通事故で、ボールを取りに飛び出たところで車に轢かれてしまうという痛ましい事故。

直葬になったのは潤の父親が関係していました。潤の父親は政治家で、S県でも葬式を廃止して直葬を推し進める政党に所属していました。息子の葬式をしたいと懇願する母親との激しいやり取りはありましたが、葬式はせず直葬することに。

その斎場では火葬を控えて母親が遺体のそばに一晩中控えていました。直葬屋の副島がその斎場にいると顔色を変えた母親が飛び込んできます。不気味な表情で「息子の遺体が無くなった、直葬が不満だから自分の遺志でいなくなったんだ」と話す母親の佳奈子。斎場には一か所監視カメラがあり、遺体のある部屋を2回お手洗いに出ていく佳奈子だけが写っていました。

斎場を探し回りますが遺体は見つかりません。とここで北条葬儀社の餡子と新実がやってきて事情を聞くと、あっさりと遺体消失の謎を解いてしまいます。副島だけが知らなかった交通事故の事実として、御堂潤を轢いたのは巨大なタンクローリーで死体がばらばらになってしまっていたということ。無事なままだったのは首から上だけ。そばに控えている副島には、それがばれないようにタートルネックを着ているように偽装して遺体消失を証言させるつもりでした。実際にはばらばらの遺体を小さな袋に入れて、斎場にある座布団やカバンの中に隠していました。2回部屋から出たときにも持ち出しています。

この謎解きは途中から割と簡単に推理できました。

妻の葬式

北条葬儀社の社長である紫苑の幼馴染の咲がS県を訪れた時に自殺という形で亡くなってしまいます。咲は医療器具メーカーの研究員で超音波を使った視聴覚障碍者向けのゴーグルを開発していました。学会でS県を訪れ友人宅に泊まっているときに自殺しています。ここで唐突にS県以外では、ある日突発的に自殺してしまう「自殺病」という病気が結構な頻度で起こっているという設定が湧き出てきます。咲もその自殺病だろうということで、事故や他殺ではないということで直葬されました。

それからしばらくして夫の創介は幻聴に悩まされることになります。時折咲の声が頭に響き渡るという症状。病院ではどこにも異常がないという診断。直葬は済ませていますが親族だけでも集めてちゃんと葬式をすれば、この声も止むのではないかと考え北条葬儀社に出張葬儀を依頼してきます。

葬式の準備をしているときも一瞬だけ聞こえてくる幻聴。この幻聴の正体は、上記の超音波の受信機を使った骨伝導が正体だろうとすぐにわかって、メガネのすり替えというトリックが明らかに。

問題はそんなメガネのすり替えや超音波発生装置の捜査を誰が行っていたのかということ。怪しい人物は3人出てきて、義母・友人・妻の同僚と出てくるんですが、一人だけ「シャンデリア幕」の意味するところを知らずに脚立を使おうとしていた同僚が犯人であるとわかります。

葬儀屋の葬式

社長の紫苑から従業員の高屋敷が川に落ちて亡くなったことが告げられます。そして、葬式は執り行わず直葬になるとも。直葬になったのは高屋敷の遺族の意思。それを聞いて遺族のところへと血相を変えて飛び出す餡子。

事務所に紫苑と新実2人となったところで、新実が驚くべきことを話し始めます。ここまでの話で亡くなった人たちが全員他殺で、その真犯人が紫苑であるという推理。その推理を裏付けていたのは北条葬儀社の勤務シフト履歴。4年前、亡くなった父の跡を継いだ紫苑が葬儀社として、仕事を受けていくために殺人に手を染めたのではないか指摘。

それに対して、紫苑は冷静に自分のアリバイを主張します。母に言われてお見合いをしていた、という確かなアリバイがありました。そして、自分が犯人ではないなら餡子こそが殺人に手を染めていたのではないかというびっくり推理を披露。と、ここで紅茶を飲んだ紫苑の体が痺れてきて動けなくなります。

そして、新実が自分が犯人であると語り始めて、先ほどまでのやり取りは紫苑のアリバイを念のために確認して罪を着せられるかどうか確かめていたのだと語ります。自分にアリバイがあるかのように語っていたシフト表は、葬儀社のIT担当という立場を活かして書き換えていました。ここまでに新実が葬儀屋として達筆になるために字の練習をしていたシーンが何度か出てきていたんですが、すべてはこのときに紫苑の遺書を捏造するため。すべての殺人を紫苑の仕業にできないことから遺書を書き換える必要があるなどと語り、紫苑を手にかけようとします。

とここで餡子の登場。ここまでのやり取りをすべて監視していました。高屋敷は死んでおらず一命をとりとめていました。犯人の姿こそ見ていないものの、自分に迫ってきた足音は新実だったんじゃないか、ということで餡子と紫苑は新実に犯行を自供させようとしていたんですね。

最後に超展開を持ってきますね、天祢先生。奇想天外のストーリーを組み立てる確かな実力がある作家として注目してるんですが、この最後の展開は賛否ありそう。

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