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『希望の国のエクソダス』取材ノート、今なお色褪せない近未来小説ができるまで

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希望の国エクソダスは、全国の中学生たちが不登校になり、ITの力を使い巨額の資金を稼いだ上で北海道に独立国家を樹立する物語です。ってひとことで表すと荒唐無稽な感じがしますね。

「この国には何でもある、しかし希望だけがない」というメッセージが強烈です。90年代の後半に連載と出版がなされており、舞台は2002年でした。

『希望の国のエクソダス』取材ノート

『希望の国のエクソダス』取材ノート

村上龍先生の取材量はすさまじいですね。一冊の小説をかき上げるまでにこれだけの人たちにインタビューをするとは。KDP(Kindle Direct Publishing)で誰でも小説を出版できる時代になりましたけど、アマチュアではプロの物書きには到底及ばないと感じさせます。ここで言うプロは執筆を仕事の本業とする方たちです。

経済に関して言うと、ドル円が140円くらいの頃でしょうか。現在の為替から言えばとんでもない円安ですが、当時は120円まで行けば超円高と呼べるくらいでした。ヘッジファンドのような、為替の歪みをついて荒稼ぎする人たちが脅威と見なされていることがよくわかります。とくにジョージソロスの名前がよく出てきますね。2014年現在でも現役であることを予想した人たちはどれくらいいたんでしょう。

変わらないのは、相変わらず為替の歪みや経済の隙間をついて荒稼ぎする人たちは今なお跋扈しているという事実ですね。ライブドアショックリーマンショック、ギリシャ問題などでしょうか。これらは、過剰なリスクを、それらを引き受けるには不適当な人たちにまで拡大したことで起こりました。

中学生へのインタビューが興味深いです。御三家に通う超エリートですね。今はもう官僚やコンサルタントとかになってるかな。「何もやりたいことがない」と彼らは言います。今と変わりませんね。将来の見通しが立たないのは今も同じです。右肩上がりの日本が終わった時からずっとです。「いい大学にいけ」「大企業に就職しろ」というメッセージの弱いこと。

この小説を読んだ時に印象に残っているのは「ウバステ」という組織を作って老人を捨てることを中学生たちが社会に問いかけるところです。この高齢化社会が生み出す絶望感は、まちがいなくひどくなっています。年上に対する敬意を全く持たない中学生たちが独立することで物語は終わりましたが、現実にはどうでしょう。お年寄りたちの数と財力は凄まじいので、これらに勝つだけの資産をヘッジファンド的な稼ぎ方で生み出すのは難しいでしょうね。

日本は世界に先駆けて少子高齢化社会に突入しました。社会を覆うのはなんとも言えない絶望感ですね。この小説が生まれる素地の一つだったのは間違いありません。これから先、地方自治体は夕張のようにどんどん破綻していくでしょうし、社会保障を継続するために税金は上がり続けるでしょう。年代別人口の分布から、これらは予想ではなく確実に訪れる未来ですね。覆すためには、移民でも受け入れるんですかね。

今、日本に住む私達は人口動態の上で世界の最先端を走っています。つまり、少子高齢化社会によって訪れる未曾有の事態に最初に突入するのは間違いなく私達が最初であり、それらへの取り組みは世界で例を見ないものになるはず。この点で外国は手本になりません。

希望の国のエクソダス (文春文庫)

希望の国のエクソダス (文春文庫)

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