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死神の精度 / 伊坂幸太郎、音楽大好きで比喩が理解できない死神

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死神の精度 (文春文庫)

伊坂幸太郎先生の短編小説。生死を決定する死神の視点から語られる6人の個性的な人物たちの物語。死神の性格が面白くて、基本的にクールなんですが、少しずれていて比喩を理解できません。

千葉と名乗る死神。名前は何でもよくて、適当に地名を使っているだけ。触ると人間は気を失って1年寿命が縮むとか。音楽には目がなくて、暇さえあればCDショップの視聴コーナーに入り浸ります。そこで同僚と遭遇することもしばしば。死神の仕事は、7日間の調査。調査対象となった人物について7日間の調査の後に「可」または「見送り」の結果を報告します。「可」なら8日目に亡くなることに。世の中の病死や自殺以外はすべてこの死神達の報告でなされているとか。

「死神の精度」はそんな死神の調査対象となってしまった人たちの最後の7日間を描きます。2005年の作品ですが、つい最近になって続編の「死神の浮力」が出ました。こちらも文庫になれば読みます。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

死神の精度

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大手電機メーカーに勤める藤木一恵クレーマーからの電話に悩んでいました。仕事は苦情処理クレーマー藤木一恵を指名して苦情を行ってきます。そのうち苦情の内容がエスカレートしてきます。電話口で「歌え」「会いたい」などというクレーマー

根負けして死にたくなる藤木一恵ですが、どうせ8日目には死ぬことになるという事で死神はお悩み相談に載ります。実はクレーマーの正体は高名な音楽プロデューサー。クレームを投げた所で苦情処理藤木一恵の素晴らしい声質に気づいていました。死神は電話の内容を自由に聞き取れるので、難なくこの事実を突き止めます。結局どちらでもいいかとコインを投げた所で藤木一恵には「見送り」の判定を下しました。

死神と藤田

藤田は今時珍しい昔気質のヤクザ。部下の阿久津に慕われています。対立するヤクザの栗木に、兄貴分を殺されたために仇討ちを果たそうとしています。藤田の命令を受けて栗木の場所を探る阿久津。このとき死神の千葉も同行します。阿久津から藤田がどんな人物か聞き出す千葉。阿久津は実は組の上の者から、藤田を見張るように命令を受けていました。

葛藤する阿久津。千葉と二人で栗木を殺しに行きます。栗木は怪しい奴が自分の周りを嗅ぎまわっていることを察知しており、2人は捕らえられます。藤田は2人が捕らえられたことを聞き、助けに向かいます。無謀とも思われますが、千葉は阿久津に「藤田を信じろ」と言います。藤田が死ぬのは8日後なので、その日ではない、すなわち死なないことがわかっていました。そして、栗木には同僚が側に。栗木の死が近いことも千葉は悟っていました。

吹雪に死神

とある洋館に千葉も含む登場人物たちが閉じ込められます。その日の夜、毒入りワインを飲んで死者が出ます。次の日の夜には外で刺殺体が。さらに次の日には、部屋で殺された女性の死体が。

千葉意外に最後に殺された女性を見ていた死神が出てきます。この話ではなんと、死神が連続殺人の推理を始めます。洋館に集まった人たちは全員、最後に殺された女性の真由子に恨みを持っていました。全員で結託して真由子を殺す計画を立てていました。

その殺人計画が、死神の登場で狂ってしまいます。毒殺しようとするも、料理を代わりに食べてしまった千葉。死神なので死にません。本当に毒が入っていたか確かめようとして、1人目が死んでしまっていました。つまり自殺。2人目は、自殺ではなく真由子に殺されたと早合点した人物が単独で真由子を殺そうとして逆襲された、というもの。

3人目の真由子だけが予定通り、死神が「可」の判定を下したがために死亡していたんですね。

恋愛で死神

アパレル店員の荻原は向かいのマンションに住む古川朝美に恋をします。その古川朝美は、ストーカー被害に悩まされていました。朝美の相談に乗る荻原と千葉。的確なアドバイスを下していきます。

この話は、最終的に荻原がそのストーカーに殺されてしまい、ストーカーは逮捕されて終わるんですが、面白いのは恋愛について荻原と意見を交わす死神のやり取り。恋愛とは何か、について考察していきます。

古川朝美は荻原の店で購入したコートを大切にしているようです。除外品だったんですが、荻原が気を利かせてセール価格で販売していたもの。

旅路を死神

千葉の調査対象は、母親を刺し、渋谷で若者を刺殺した容疑で追われている森岡耕介。過去に誘拐事件に巻き込まれたという過去があります。車のトランクに長時間閉じ込められたうえ、ベッドに縛られて監禁されていたのでトランクやベッドがトラウマ。千葉の車に乗り込んで、2人での逃亡劇を描きます。目的地は十和田湖奥入瀬

相変わらず比喩を理解できない千葉とのやり取りがキレイにハマっているのが面白い。ステーキを食べた後「うまかった。もう死にそうだ」に対して「その通りだな」という返し。

森岡の目的は深津という人物。誘拐犯の一人で森岡を監視していました。実際には足が悪く、深津もまた誘拐犯に囚われていた人物なのですが。死神の助言もあり、最後は誤解が解けたかのような描写となりました。

死神対老女

美容院を経営する70代の老女が千葉の調査対象。出会うなり、千葉を人間ではないと見抜きます。彼女はこれまでの人生で、多くの周囲の人を亡くしており、その時の独特の気配を覚えていました。

そんな彼女は千葉を死神と気付いた上で、一つの頼みごとをします。それは、美容院に若者の客を読んで欲しいというもの。その頼みを受けて、街で美容院を訪れてくれそうな若者に声をかけていきます。

老女の目的は、自分の息子の子ども、すなわち孫と出会うこと。自分に愛想を尽かして出ていった息子の子ども、性別もわかりませんが、孫が自分に会うために見せに来てくれることになりました。名乗ることはできないということで、死神に若者をたくさん店に読んでもらっていました。いつも通り接客したかったんですね。

実はこの女性「恋愛で死神」に出てきていた古川朝美です。除外品で購入したコートが出てきます。好きな曲は藤木一恵のもの。実は、死神の物語は時系列で進んでいたんですね。さらに、藤木一恵のCDデビューから古川朝美の彼氏の死、現在の老齢に至るまで結構な年月が過ぎています。思わぬ繋がりを見せてきました。この話の死神と老女とのやり取りも中々面白いです。

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