PHMPK.LOG

漫画、ゲーム、投資、育児

広告

格闘する者に○ / 三浦しをん、講談社からなぜ一冊も出ないのかよくわかるデビュー作

広告

格闘する者に○ (新潮文庫)

三浦しをん先生のデビュー作、テーマは就活。

本好きで漫画好きでもある作者が、出版社への就職を目指して活動していたことが、作品内に反映されていますね。その就職活動中に、早川書房の編集者にその才能を見出されたことが、作家になるきっかけでした。

デビュー作とは思えないほど、安定感のある各キャラクターの軽妙なやり取りが展開されています。本質ではないんでしょうが、採用してくれなかった出版社への悪意がにじみ出ている点もGood。そもそもタイトルの由来が、そうですからね。

ちょっと就活風景は古くて、リクナビ・マイナビのようなネット就活ではなく葉書で応募する形式。全員で一箇所に集まってSPI試験を受けるのも今は見ない風景。少数しか採用されない出版社が、なぜか人気なのは同じ。

丸川書店は角川書店だし、集A社とK談社はもちろん集英社と講談社。特に講談社の面接描写がひどい。男女差別・セクハラをにじませる面接で、面接官が自分の好きな作家を「売れないな」一冊出ている講談社からの本に対して「絶版でしょ」といった、相手を徹底的に下に見た発言を連発。

本作は単行本が草思社から、文庫本が新潮社から出ているのはそのあたりが絡んでいるんでしょうね。講談社への恨みは深いと見えて2015年現在、三浦しをん先生の作品で講談社から出版されているものは一つもありません。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

広告

とある大学の文学部に通う3年生の藤崎可南子は、同級生の砂子、二木くんと共に遅ればせながら就職活動に。

出版社を中心に就職活動を開始しますが、ゆるゆるで完全に乗り遅れています。「平服で」と書かれているのを見てスーツではなく、私服で向かったり、SPI試験の存在を知らずにスパイとは何じゃ?と思ってみたり。

可南子自身も変わったメンタリティの持ち主ですが、周辺の人物もみんなひと癖ふた癖あります。可南子が付き合っているのは、60歳を越えたおじいさんの西園寺さん。弟の旅人は高校生ながら、遊びまわってふらふらしている上にスモーカー。母が亡くなっていて、家に居るのは継母で旅人とは母違い。父親は婿養子で藤崎家の地盤を継いだ政治家で家にはほとんどいません。

書類選考は順調に突破して、丸川書店や集A社、K談社といった大手の面接を受けることになりますが、藤崎家の後継問題も起こってきます。姉弟ともに、どうしても後継者にはなりたくないところ。就職活動なんてやめて、後を継げと宣う親戚のおっさんをなあなあでいさめつつ問題を先送りにするという手腕を見せる政治家の父。

就職活動はというと、K談社のSPI試験で社員と思しき試験官がしきりに「カクトウするものに丸を」と声をあげていました。なんのこっちゃ、と思っていたら二木くんが答えを教えてくれます。該当をカクトウって読んじゃってたんですね。エリート意識丸出しのK談社社員のこの体たらくを見てガックリくる可南子。

S英社は父の秘書である谷沢から、「よろしく」という旨の連絡がなされていて、「受かっても行きたくない」と宣言してしまいますし、丸川書店でも相変わらず女性差別としか思えない質問を投げられた上にお祈り連絡を受けてしまいます。そうこうしていると、弟の旅人が家出。義母はショックで寝込んでしまいます。最後はなんてことなくひょっこり帰ってくるんですが。

そんな感じで、大きな山場もなく訥々と物語は進んでいって結びとなります。「どうなるかなんてわからない」と言いながら歩んでいく可南子の描写でおしまい。

そこかしこに散りばめられた可南子の心情に笑える一冊でした。

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○

格闘する者に○

関連エントリ

何者 / 朝井リョウ、意識高い系就活生に向けた珠玉の一冊 - PHMPK.LOG

phmpk.hatenablog.com

phmpk.hatenablog.com

広告

広告