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タックスヘイヴン / 橘玲、シンガポールを舞台に国際金融を巡る陰謀うごめくハードボイルド小説、あらすじと感想

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タックスヘイヴン TAX HAVEN

橘玲先生の国際金融をテーマにしたエンターテインメント小説。タイトルになっているタックスヘイヴンは通常、租税回避が行われる小国を指します。オフショアビジネスってやつですね。舞台は日本とシンガポール

本作でも、お金持ちやいわくつきのお金をこっそり運用した人たちのためのプライベートバンクが登場するんですが、このプライベートバンクは日本では富裕層向けの外資系がほとんど参入してきません。理由は異常に税金回りの参入障壁があるから。相続税・贈与税、法人税など日本の税率は、海外と比べても著しく高い状況にあるので、日本のプライベートバンクの仕事は資産運用や資産退避の前に税金対策。

その点で、日本から見ればシンプルな税制と低い税率、厳重な顧客情報管理がなされるシンガポールプライベートバンクは魅力的。といっても起業家のように大きな資産がある人だけの話ですが。

本作「タックスヘイヴン」は2人の主人公が登場します。一人は外資プライベートバンク勤務を経て独立した金融コンサルタントで百戦錬磨の古波蔵祐(こばくらたすく)、もう一人は平凡でちょっと落ちこぼれた日本人の牧島慧(まきしまさとる)で大金を巡る陰謀に翻弄されます。2人は高校の同級生という間柄。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

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会社を辞めてから翻訳でほそぼそと食いつないでいる年収300万ほどのワープア牧島慧のもとに一本の電話がかかって来ます。かけてきた相手は高校の同級生紫帆、結婚して性が北川になっています。13年ぶりに電話をかけてきた用件は「夫がシンガポールで亡くなったので、通訳としてシンガポールまで付いてきて欲しい」というもの。

紫帆の夫北川は4年前に結婚した後、日本とシンガポールを行ったり来たりする辣腕ファンドマネージャーとして大金を動かしていました。その北川がシンガポールのあるホテルから飛び降りるという形で不審死。自殺・他殺・事故すべての可能性を考えて警察が操作しています。シンガポールに入ってすぐにスイスSG銀行の執行役員のエドワードという男が接触してきます。「貸し付けている債権1000万ドルを相続放棄しろ」という要求。借金なので本当ならば相続放棄したほうがいいのは明らかですが、裏がありそうでどうすればいいかわかりません。そのときに牧島が電話をかけて相談したのが古波蔵。一笑に付して「『法律家の確認を受けないどのような書類もサインできない』と言え」、と言われてそのとおりに。

古波蔵は民平という飲食業のオーナー村井から依頼を受けて、牧島と紫帆に接触してきたスイスSG銀行に行くことに。預けたはずの金が消えていました。村井にスイスSG銀行の口座を開くよう持ちかけたのが北川、銀行の窓口となるプライベートバンカーが山之辺という男。ここで北川の死を巡る一連の金の流れがつながってきます。

ヤクザ、政治家、企業から集めた大金を消失させて命を絶った北川。ブラジルに原発を輸出するという詐欺話で大金をかき集めていました。詐欺といいつつ勝算はあったようで、政治家主導で一企業にブラジルへの原発輸出の交渉権を与えて、その会社の株を売り抜いて利益を還元するという筋書きでした。しかし、その話はすべて3月11日の自身でパア、原発関連の会社の株も暴落して大損。

古波蔵は一連の金の流れの中で、北川がカンボジアに謎の送金を行なっていたことに注目。アングラな金の動きがあり、北川に指示を出していた人物がいるとにらみます。北川がどんな仕事をしていたかも知らず、牧島に頼るばかりとなっていた紫帆は、北川の死に関して重大な嘘をついていたことが明らかになってきます。死の直前、北川は何度も紫帆と通話していました。行方不明になった紫帆を追う牧島。

紫帆は高校卒業後、ホステスとして働いて件の原発輸出を主導する権力のあった政治家の愛人になっていました。愛人関係が妻にバレて東京に居られなくなったところで北川と知り合い結婚。牧島と古波蔵の動きを逐一把握して接触してきていた政治家秘書の猪野に情報を流していたのは紫帆。その猪野は何者かに刺されて死にます。

複雑な金の流れはありましたが、一連の事件の裏にあったのは北朝鮮工作員の存在。北川・猪野を殺し、古波蔵にも銃弾を打ち込んできます。カンボジアに移された金の行き先はイラン、核技術供与の見返りの支払いでした。国際的なマネーロンダリング、テロ支援資金の流れを断つアメリカ主導の国際金融秩序の網をかいくぐる方法として無法地帯のカンボジアが利用されていました。

北川の裏にいたのは、古波蔵に情報提供する役どころで出てきていた柳。柳は韓国大物フィクサー崔の部下の情報屋という設定でしたが、実際には崔は植物状態で名前を利用されているだけ。北朝鮮工作員でもなく、二重スパイという設定でした。そのため、最後は公安まで飛び出してきます。「お友達(牧島と紫帆)に安全に暮らして欲しいなら黙って日本を出たほうがいい」という要求を聞き入れたかのように見せて、最後になんでもありのヤクザの赤目に柳を殺させるように立ちまわる古波蔵。最後までブレない孤高の存在として描かれます。紫帆は北川の残した金が全く無いので一文無しになりましたが、牧島と結ばれてなんとかやっていく覚悟ができたようで、一般市民はこちらでハッピーエンドとなります。

読み応えのあるハードボイルド小説って感じでしたね。わかりにくい金融の世界ですが、ダイナミックな物語に合わせて説明してくれるのでスラスラと読めてグイグイ引きこまれます。

タックスヘイヴン Tax Haven

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