烏賊川市シリーズの最初の作品です。
- 作者: 東川篤哉
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/02/09
- メディア: 文庫
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短篇集は以前読んでいます。
はやく名探偵になりたい、ミステリーを普段手に取らない人がターゲットでしょうけど、無理やりの展開が多すぎ - PHMPK.LOG
最初の作品という事で、探偵の助手役だった戸村流平がまだ大学生ですね。なぜ探偵の助手になったのかわかりました。この作品の続きだとすると、就職がダメになってしまったんですね。
「密室の鍵貸します」は、流平の元彼女と先輩が殺人の被害者となります。その先輩が、流平の就職を世話してくれていました。同日の夜9時45分前後に、刺された後で突き落とされた元彼女。さらに、10時15分から11時30分の間に殺害された先輩。この2つの殺人の謎を解きます。先輩のほうが、密室殺人です。殺人が可能なのは、同じアパート内にいた流平だけ。アパートの扉にはチェーンロックがかかっており、流平が防音のシアタールームに居るときに先輩が風呂場で刺殺されます。
この密室殺人の謎を解くときに、「推理小説ではこんなときはうんぬん・・・」と言ったくだりが面白い。密室なんて普通は無いですもんね。鵜飼も、現実的には本当に密室なら「内出血密室説」「槍密室説」くらいしかないと当たりをつけています。内出血密室説は刺された被害医者が、犯人から逃げて扉に鍵をかけて自分で密室を作ってしまうこと。槍密室説は、人が出入りできない程度の隙間から、槍などで刺し殺すことです。これなら密室でも殺人が可能です。これらを踏まえて、なかなか明快な推理による解決がなされます。最後はアッー!*1な感じになります。
ミステリーの存在自体をメタ化しているようにも見えますが、展開は間違いなく本格ミステリーです。面白かったです。やっぱり時間があれば短編よりも長編小説を楽しみたいですね。
詳細なあらすじ(ネタバレ注意)
流平は、就職を世話してくれた先輩の家で映画を見るために、ビデオ屋で「殺戮の館」という1970年代に取られた映画を借りて向かいます。先輩のアパートは、改造され防音のシアタールームがあったためです。映画を見てから、ちょっと飲むかという事になり先輩が買い出しに行きます。帰ってくると、なにやら飛び降り自殺があったみたいだ、といった話を先輩から聞きます。その後、流平がシャワーを浴びてシアタールームに戻り、先輩もシャワーを浴びに行きました。ところが30分たってもシャワーから戻ってこない。風呂場に様子を見に行くと、刺殺されていました。流平はそのときのショックで気絶してしまいます。目が覚めてから、アパート内を確認しますが、アパート内に犯人の姿はなく完全に密室でした。犯行が可能なのは自分だけなので慌てて逃げ出して姉の元夫である探偵鵜飼を頼ります。
元彼女を殺したのが先輩で、流平はアリバイ作りに利用されていました。流平が借りてくる映画のビデオを予め編集により時間を縮めておいたのです。これにより流平は時間を勘違いします。実際には、買い出しに行くといって外出した時に、元彼女を殺害していました。その後、シャワーを浴びると言って外に出て辻褄をあわせるために、飛び降り自殺の野次馬に混じり周辺住民と会話をして帰り、流平にアリバイを証言させる、というのが先輩の目論見でした。ただ、帰り道にホームレスに絡まれたことにより、凶器を振り回すのですが、逆に自分が刺されることになってしまいました。その後はアパートに帰り「内出血密室説」の完成です。
短編からは予想できないほど、完成度の高い本格ミステリーでした。読んで満足です。
*1:脚注にしましたが、説明はしません。アッー!で検索してください