「サクラ咲く」は辻村深月先生の短篇集。中学生向けのジュブナイル小説ですね。「約束の場所、約束の時間」「サクラ咲く」「世界で一番美しい宝石」の3篇からなります。
中学生向けということで明らかだとは思いますが、黒くてドロドロしたほうじゃなくて読後感爽やかな辻村作品に分類されます。カバーがややラノベチック。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
約束の場所、約束の時間
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夏休み明けの2学期にやってきた転校生の菊池悠は、武宮朋彦の隣の席に。陸上部の武宮は新人戦に向けてリレーの練習に励んでいますが、ある日立入禁止の裏山に入ろうとしている菊池を目撃。声をかけようとした時に、菊池の足元に今武宮が夢中になっているゲーム「ドラクラ」の攻略本が見えました。武宮に見つかったことで明らかに「やばい」という表情を浮かべる菊池。
その日はそのまま別れますが、ちらっとみえたドラクラ本のナンバリングは9、現在は2までしか出ていないはずなのに。そのことを菊池に詰問すると、あっさりとタイムマシンに乗って100年後の未来から来たことを告白。お互いドラクラ2と9を貸し借りするなど仲良しに。菊池にとっては、ドラクラ2は幻のソフトとでも呼ぶべき伝説の作品でした。菊池が過去にやってきたのは病気の療養のため。100年経っても治療法の見つからない病気に冒されていました。
菊池と武宮は仲良くなりますが、そのことを怪しんだクラスメートに裏山に入っていくところを着けられ、不穏な空気に。裏山に隠していたはずのソフトが消失します。結局、犯人は自分から告白してくるんですが、別のクラスメートが2人をかばうために裏山に。裏山には遺跡があり、崩れかけていて危ないという事で立入禁止になっていました。菊池と武宮の2人がクラスメートを見つけた所で遺跡が崩れます。とっさに2人を助けるために、タイムスリップを使った菊池。その影響で未来に帰らざるを得なくなります。
菊池から未来から来たメッセージを受け取った武宮は、100年後の未来を少しでも良くするために病気の治療法を考えることを決意します。
本当にタイムスリップなのかと最後まで疑ってしまった私は、辻村先生の叙述トリックに毒されてますね。
サクラ咲く
中学校に進学した塚原マチは、本が大好きで引っ込み思案な女の子。中学生になったら自分を変えたいと考えていましたが、図書委員になりたいと思っていたのに初期に推薦されたら断れず、陸上部に入ろうと思ったら「厳しいらしいから向いてないんじゃない」と言われて科学部に。
マチが仲良くなったのは委員長の守口みなみと、同じ科学部の海野奏人。みなみはマチが羨ましいくらい積極的な性格でみんなの中心人物。奏人は父が車のエンジニアで、マチに負けないほど読書を好む科学者志望の男の子。
ある日、みなみに声を掛けられて不登校になっている高坂紙音の家に連絡を一緒に届けることに。高坂紙音とは入学直後に一度話したことがあり、優しい子という印象が残っていました。不登校の理由はわかりません。
中学に入ってから、小学校にはなかったような数々の小説を借りて読んでいると、一冊の中に髪が挟まれていることに気づきます。その紙には「サクラチル」と書かれていました。その後も本を借りていると「みんなが私を見て笑っている気がする」「人にはそれぞれ、向き不向きがある」といった言葉が綺麗な字で書かれていました。まるで、その時の自分の気持を代弁するかのような言葉が挟まれていましたが、貸出履歴を見てもその紙を挟んだような人物の名前はありません。
意を決して、紙を挟んだ人物がこれから借りそうな本の中に自分のメッセージを挟むマチ。後日返事が挟まっており、マチと誰かの密かな文通が始まります。しかしある日「来年はここに来られないかも知れない」というメッセージが挟まれていました。それをみてマチは紙に自分の名前を書いて、文通相手に名前を教えて欲しいと伝えます。挟まれていた返事には「私は高坂紙音です」とありました。
みなみを含めた仲のいい面々に相談するマチ。そこでわかったのは、紙音は中学受験していて、本来別の学校に行く予定だったということ。幼い頃から声楽をたしなみ、専門の教育を受ける予定でした。しかし、受験で落ちてしまい、公立中学校に通うことになっていました。最初は通い始めるも、周囲が自分が落ちたことを笑っているのでは、と疑心暗鬼に苛まれて不登校になっていました。「サクラチル」「みんなが私を見て笑っている気がする」「人にはそれぞれ、向き不向きがある」という言葉の意味がわかります。教室に登校できないまでも、保健室登校のように別室で自習していた紙音は、名前を残さずに図書室で本を借りていました。
クラスメイトからの山盛りの励ましメッセージを挟んでパンパンになった本を図書室におき、紙音の登校を待つクラスメートたち。果たして紙音は投稿してきます。折しも三年生を送る会が迫っており、紙音が加わりその圧倒的な声量に押される形で、クラスの合唱もクオリティがアップ。みんなの心がひとつになり、外を見るとサクラが咲こうとしていました。
ええ話や。
世界で一番美しい宝石
映画同好会の3人組は、自分たちが撮ろうとする映画の主演をしてくれる女優を探していました。目をつけたのは「図書室の君」と呼ばれる美しい容姿を持つ立花先輩。あだ名は、昼休み・放課後にずっと図書室で本を読んでいるから。映画同好会の3人組が入学してきた時に、新入生歓迎会で演劇部が披露していた劇で主演を務めていました。抜群のルックスと演技力の持ち主。
毎日練習があるはずの演劇部に出ることなく、図書室で本を読んでいることからもう部をやめたと考えた3人が、映画に出てもらうようお願いするも、けんもほろろに断られます。あきらめず、しつこいくらいお願いし続けますが、色よい返事はもらえません。
別方面からも立花先輩について探る同好会の面々。演劇部をやめたことに理由があるのではないかと疑いますが、突然理由なく部をやめたらしく、手がかりはつかめません。そうこうしているうち、毎日のお願いが通じたのか、主演するための条件を立花先輩が出してきます。それは、幼い頃に読んだ童話の本を見つけて欲しい、というもの。宝石職人の話で、家族と引き替えに世界一の宝石を作る力を手にする取引を魔法使いに持ちかけられる、というあらすじ。読んだはずの結末が思い出せないという事で、3人にこの本を探すことを依頼します。方々を回ってその本について探し求めますが、これも手がかりは得られません。
演劇部を辞める寸前に、3年生の三根先輩に告白されたのでは、という噂を聞いた3人は件の三根先輩を直撃。三根先輩の話から立花先輩が演劇部をやめた理由が明らかになります。新聞部部長の三根先輩は、抜群の演技力の秘訣を探るべく演劇部の立花先輩について特集を組むためにインタビューを行い、録音していました。その録音の中身は絶句もの。高校に入ってから引っ越してきた立花先輩が通っていた中学まで行き、過去の立花先輩がどんな人物だったか聞き出していました。かつて、引っ込み思案で地味な見た目だったことを問い詰める三根先輩。インタビューした中学時代の同級生の中には、明らかに立花先輩に悪意を持った人物も含まれていました。インタビューの途中で取り乱し、声を荒げる立花先輩。結局そのインタビューで新聞記事を作成出来なかったという事で三根先輩は、立花先輩を恨んでいました。もちろん、記事にできない録音を聞かせたのも映画同好会の面々の中で立花先輩の価値を貶めるため。
憤慨した同好会は、なんとしても映画に出てもらって新聞部を見返したいと決意を新たに。しかし、探している童話は見つかりません。3人が出した結論は「そんな本は存在しない」というもの。そこでひねり出したのが、その本を自分たちでかき上げて先輩を納得させる結末を描こうというもの。果たして創り上げた絵本は、立花先輩を感動させるに十分でした。その熱意に打たれて、映画同好会に入部を決める立花先輩。4人以上いれば、同好会から部へと昇格することができます。
あらすじだけみると、ふーんで終わりそうですが、同好会を率いる武宮がなかなかの好人物。運動ができない、文化活動で成果を出せないような人たちの居場所を作りたいと願って同好会を立ち上げ、部へと昇格させたいと考えていました。
3篇とも、じわじわいい気分になるティーン向けの良作、オススメです。
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