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ぼくは明日、昨日のきみとデートする / 七月隆文、京都を舞台にした切ない恋の話

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ぼくは明日、昨日のきみとデートする (宝島社文庫)

七月隆文先生の恋愛小説、表紙はカスヤナガト先生。

京都を舞台に大学生である南山高寿と専門学校生である福寿愛美が出会い、恋に落ちて、それからを描きます。

学生が多く、素敵なスポットが数多くある京都で青春する描写がすごくいいです。そして、タイトルでややバレそうになってますが、1度読んだ後2回目を読まずにはいられない七月先生の技工が光っています。

あらすじと感想(ネタバレ注意)

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京阪電車に乗っていた南山高寿は、丹波橋から乗ってきた一人の女性に一目惚れします。終点出町柳から叡山電鉄に乗り換えて宝ヶ池で降りた彼女を追いかけていきなりの告白。「メ、メアド教えて下さい」「電車の中で見て・・・一目惚れしました」。引いてしまうかと思いきや、優しく笑いかける福寿愛美「携帯持ってないんです」。

そこからお互い自己紹介して、付き合い始めることに。話し始めてすぐ涙を流す愛美。「ちょっと・・悲しいことが・・あってね」というセリフ。結局連絡先は聞きそびれてしまいます。

そこから、甘酸っぱい男子の青春が始まります。番号を聞くことはできませんでしたが、翌日高寿の通う大学が美術系ということで、動物園で絵画の実習をしているだろうと踏んできた愛美と出会います。そこで電話番号の連絡先を交換することに成功。

そこから最初はぎこちなく映画や食べ歩きのデートを重ねて徐々に関係を深めていきます。彼女の呼び方も「南山くん」から「高寿」へ。

ここまでで読者には何度もそれらしい伏線が提示されるのですが、愛美はまるで高寿の未来を知っている予知能力者のように振る舞うシーンがちらほら。その秘密は中盤あっけないくらいあっさりと彼女自身の口から高寿へ明らかにされます。

愛美は高寿と違う時間軸の世界の人間であり、その世界の人たちはこちらの世界で1日進むたびに1日時間が巻き戻っていきます。タイトルにもなっているように、明日デートする愛美は昨日の愛美であり、その日に高寿と出会った愛美はすでに明日の高寿とデートをした後

10歳の時に出会って優しくされたおばさんからもらった箱を開ける鍵を愛美が持っていました。箱の中から出てきたのは20歳の2人が仲睦まじく写っている写真。愛美は10歳の時に、30歳の高寿と出逢って鍵を受け取っていました。

愛美のいる世界から、高寿のいる世界に5年に一度来ることができて観光として40日間滞在可能。本来なら、別の世界の人間として深く関わることのないはずでしたが、恋に落ちてしまった二人。

すべてを知ってから激しく苦悩する高寿。次の日に出会う愛美は、昨日までの高寿との思い出を共有しておらず、未来の高寿から聞いた2人の思い出をトレースしようとしているだけだから。だけど、そうじゃなくて予定調和のお互いの未来の中で愛美が、そういうふうに振舞っていたのは深く高寿を愛していたから。愛美からすると呼び名が「高寿」から「南山くん」へと変わっていくことのはつらいこと。高寿にとって、初めて手を繋いだこと、キスをしたこと、肌を重ねたことが、全部愛美にとっては未来の高寿から聞かされた順序に従って覚悟していたことだった。

予定調和のレールを外れようと悩み苦しむ高寿ですが、愛美との出会いを思い出し、その涙の意味を理解します。

エピローグは愛美が5歳、初めて「となりのせかい」に両親に連れられて遊びに来たとき。お祭りに参加しますが、そこで屋台の爆発事故に巻き込まれます。間一髪で男性に助けられる愛美。そのとき、その男性に運命的な何かを感じ取ります。「さようなら」「また会えるよ」と言って去っていくその男性から愛美に向けられる視線は、深くさみしそうで、溢れそうな感情がこめられたもの。その15年後、4月13日、20歳の愛美がこの世界に居られる最後の日、8時1分着特急出町柳行、1番後ろの車両2番目のドアで、高寿を見つめながら車両に乗り込んでいきます。

切ない終わりがグッと来るとともに、愛美の行動を追うために読み直さずにはいられない面白さがありました。2015年に読んだ小説の中では今のところ1番かな。そんなにたくさんは読んでませんけどね。

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