忘却探偵シリーズ3作目。過去2作は書き下ろしだったんですが、挑戦状にある3編はメフィストの掲載作。実は連載タイミングで言うと、推薦文よりも先に書かれた作品だったことが後書きに書かれていました。
ドラマ化も決まっている掟上今日子さんですが、この挑戦状はガッツリミステリしています。備忘録で厄介、推薦状で親切という後に出てきそうなキャラクターが出てきたんですが、他の作品でも出てくるかと思ったらそんなことはありませんでした。今日子さん以外のキャラクターはみんな、その話限りのキャラクター。
あらすじと感想(ネタバレ注意)
掟上今日子のアリバイ証言
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キャラ名 | 説明 |
---|---|
肘折檻鉄(ひじおりおりてつ) | 刑事 |
鯨井留可(くじらいるか) | 元水泳選手のインストラクター |
宇奈木九五 | 現役水泳選手 |
鯨井視点で始まります。その日、鯨井は自分のアリバイを作るために奔走していました。知人だと自分に有利な嘘を付いていると疑われる可能性があるので、完璧なアリバイは見知らぬ第三者が望ましい。ということで15時にできるだけ目立つようなアリバイを作ろうと街を歩いていて目についたのが、喫茶店にいる総白髪の女性。その女性と相席しておしゃべりして周りの客の印象にも残そうとします。ひとしきり会話を楽しんだ後、用事を思い出したかのようなていで喫茶店から走りだします。
その後、宇奈木のマンションに行って計画通り第一発見者となる鯨井。部屋でなんらかの細工をした上で警察に通報します。作ったアリバイは残念ながら意味をなしませんでした。鯨井が1時間ほど楽しくおしゃべりした女性は、掟上今日子という探偵で1日たったらすべての記憶が失われてしまいます。一応15時にアリバイがあったとして、今日子さんが捜査を開始すると、死んだ宇奈木の部屋には怪しい部分がプンプン。
死亡時刻が15時ジャストなのは確実でした。なぜなら宇奈木はその時間にお風呂場にドライヤーが浸かって感電死。すべての電化製品がブレーカー落ちによって止まっており、時刻には作為がありません。動機というには2人の関係は、それほど濃いようにも見えませんでした。しかし、今日子さんが鯨井に聞き取りを行った心象は、大きなボロこそ出さないものの真っ黒。使われたドライヤーは風呂場で使うことを想定していたとは思えないくらいコードの長さがぎりぎりでいかにもこの殺人のためにあつらえたかのよう。
今日子さんはいろいろな情報から結論をだそうとしますが、自分がアリバイに関わっているという事実から客観的に事件を考えられていない、ということで肘折刑事に事情を話してもらうように頼んで、一度寝て全てをリセット。目覚めたまっさらな今日子さんは、真相を即座に推理します。
いかにも真っ黒に見えた鯨井は殺人犯ではありませんでした。鯨井が第一発見者としてやっていたのは、宇奈木を他殺に見せかける偽装。宇奈木はいかにも、お風呂の蛇口を開いたままにして、時間が来たらドライヤーと水面が触れて感電死するような時限式のトリックに見せかけつつ自殺するというややこしいことをしていました。自殺の動機ははっきりとはわかりませんが、選手としての伸び悩みでしょうか。同じ水泳でかつて選手だった鯨井はその意思を汲んで、競技から逃げて自殺したと思われないように他殺に見せかけた第一発見者になることを請け負っていました。
掟上今日子の密室講義
キャラ名 | 説明 |
---|---|
遠浅深近(とおあさふかちか) | 刑事 |
屋根井刺子 | アパレルショップ「ナースホルン」の常連にして被害者 |
アパレルショップ「ナースホルン」のフィッティングルーム内で常連客の屋根井という女性が撲殺されたという事件。凶器は店内にあるハンガーでした。カーテン1枚で隔てられているだけでしたが、絶えず客やスタッフの行き来があるため、ある意味密室と言えます。
10時にオープンしてからやってきた屋根井が11時頃にフィッティングルームに入っていって、出てこないことを訝しんだスタッフが死体を発見という経緯。刑事の遠浅はミステリ好きが高じて警察になってしまったというちょっと探偵に対抗心を抱いているという性格付け。手伝いで来た今日子さんを邪険に扱うも、事件解決の糸口がつかめいないという事で助けを請います。
その日の夜、ご飯を食べに行った時にもらった今日子さんからのヒントは、
店内での屋根井刺子の目撃証言は買い物客ばかり
第一発見者はどうしてフィッティングルーム内の異常に気付くことができたのか
フィッティングルーム内から外が見えないというのは本当か
という3つ。密室とはどういう場合に発生するのかということも踏まえて、探偵としての講義が展開されます。お金で動く今日子さんは、ギブアップした遠浅刑事からいろいろおごってもらってから、その推理を披露。
ヒントの1番、被害者を目撃していたのが本人を知らない買い物客ばかりだったのは、被害者が全身ナースホルンの服で固めた奇抜なファッションだったから。その服装でフィッティングルームに入っていく様子が目撃されていました。そもそもその人物は屋根井刺子ではなく犯人。フィッティングルーム内は一人動くのがやっとというスペースで、ハンガーで撲殺するなんてとてもじゃないけどできません。実は被害者が殺されていたのはオープン直前の10時前で、それからずっとフィッティングルームに入れられっぱなしでした。
ヒントの2番、誰もフィッティングルームを覗かない、誰かが異常に気付く、という状況にするために使われたのがフィッティングルームの前に置かれた靴。犯人は人の目がないスキにフィッティングルーム前の靴を入れ替えることで、あたかも入れ替わりで誰かが入っているように見せかけて覗かれないようにしていました。発見されたのはもちろん、ずーっと同じ靴がおいてあるという状況になってから。
ヒントの3番、上記の状況を作り上げられる人物はショップスタッフの仕事を操作できるような人物に限られます。つまり店長。さらに、店内のいくつかの場所に設置された防犯カメラの映像をスマホから確認できるようになっていたので、フィッティングルーム内にいながら誰にも見られないように外に出るタイミングを伺うことが出来ました。
掟上今日子の暗号表
キャラ名 | 説明 |
---|---|
鈍磨削(どんまけずる) | 刑事 |
結納坂仲人(ゆいのうざかなこうど) | 加害者 |
縁淵良寿 | 被害者 |
結納坂仲人は一緒に人材仲介業を営んでいた縁淵良寿を殺します。死の直前、加害者がいる前でおもむろに血でダイイング・メッセージを書き始める被害者。
丸いと四角いが仲違い 逆三角形では馴れ馴れしい 直線ならば懐っこい
結構長いダイイング・メッセージですよね。結納坂がこのメッセージを消すことは簡単でしたが、そうはしませんでした。理由はこのメッセージが犯人である自分を示す可能性があるものの、会社の金庫の開け方を知っているのも縁淵ただ一人で、この暗号のようなメッセージが金庫のパス25桁の数字を示すかも知れないから。文字の形状にも意味があるかも知れないため、そのまま消さずに去ります。あわよくば、警察がこのメッセージの意味を必死で解読して答えを自分に教えてもらうことを期待して。もちろん自分の名前が導きだされた場合は、しらばっくれるだけ。
しばらく経ってから警察が事情聴取に訪れるもダイイング・メッセージを解き明かす様子はありません。シビレを切らした結納坂は探偵に依頼します。忘却による秘密厳守の今日子さんに。
ちょっと暗号を解きあぐねるのかな、と思いきや金庫を開けるための25桁の数字かも知れないというヒントを貰うと、すぐさま答えに至ります。
まるい・と・しかくい・が・なかたがい ぎゃくさんかっけい・では・なれなれしい ちょくせん・ならば・なつっこい
文を単語に区切って並べると11桁の数字が登場します。11桁では25桁に満たないですが、この数字の並び「3141592653」ならば残りも類推できます。3.14から始まる円周率ですね。と、ここまで回答したところで警察の鈍磨たちが部屋に踏み込んできます。通報したのは今日子さん。お金をつまれて依頼を受けましたが、警察の要請が先でした。犯人しか知らない暗号の答えを知りたがる人物が食いついてくるのを待っていました。
本格ミステリっぽくなってきた挑戦状の次作「掟上今日子の遺言書」は10月4日発売ですね。楽しみです。
- 作者: 西尾維新,VOFAN
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